AIを支える、持続可能で豊かなエネルギー

戦略上、不可避の課題

世界の主要経済国が抱える労働力の低下や政府債務の増大といった課題に対処するには、先端半導体技術が支える人工知能(AI)の活用が最も有効な手段の1つだと言えます。AIを活用して広範囲にわたって生産性が向上することで、生活水準の確保、公平な所得分配、政治的安定の強化につながります。しかし、それを支える高度なデジタル インフラストラクチャーの構築には、世界のエネルギー消費のあり方を大きく変える必要があります。

AIの普及よる電力負荷の増大はあまりにも大きく、単に新たなクリーンエネルギー(または脱炭素エネルギー)を導入したり、従来の発電方法による発電量を増やしたりするだけでは不十分かつ非効率です。持続可能で豊富なエネルギーを安定確保していくためには、もっと広い視野からのアプローチで電力網そのものを再構築していくことが求められます。CO2排出量の削減やいわゆるグリーンエネルギーの推進といった個々の課題だけに着目した取組みは、脆弱なものになってしまう可能性があります。先端的コンピューティング基盤の強化およびコスト効率と持続可能性を考慮した豊富なエネルギーの安定確保を両立させることは、マクロ経済的リスク、地政学的リスク、そして気候変動リスクに対応する上で極めて重要になっています。

本レポートでは、AI時代を支えるための持続可能で豊富なエネルギー供給を加速化するための新たな戦略的取組み として、(a) 電力調達の脱炭素化、(b) エネルギー効率に優れたコンピューティング、(c) 半導体業界における新たな機会の収益化という3つの柱を掲げて提言を行っています。グリッドの脱炭素化には、(i)より多くのエネルギー生成、(ii)グリッドの近代化とスケールアウト、(iii)クリーンなソースへのミックスシフトが必要です。電力調達の脱炭素化に向けた具体策として、(i) 発電量の増大、(ii) 電力網の近代化と大規模化、(iii) クリーン電源中心のエネルギーミックスへのシフトについて述べ、エネルギー効率に優れたコンピューティングに向けた具体策として、(i)アーキテクチャー・設計・製造における最適化を実現するための新たな戦略、(ii) 生産効率と排出抑制を高めた製造現場向けソリューション、(iii) クリーンな(または排出量ゼロの)エネルギーが豊富な地域への製造拠点の設立、を提案しています。また、半導体業界にとっての新たな機会の収益化に向けては、業界全体でスピード感のあるイノベーションの共創を可能にする新たな協業モデルが不可欠であることを強調しています。

本レポートでは、AIによる生産性向上が電力網の制約によって妨げられることのないよう、持続可能性と脱炭素化という既存の課題とAI時代に必要とされる豊富なエネルギーの確保という新たな課題を整合・両立させるための包括的な戦略を紹介しています。

持続可能で豊富なエネルギーの安定確保に向けた新たな戦略的取組み

AI時代に必要な持続可能かつ豊富なエネルギーの供給を加速化するために、アプライド マテリアルズは、(a) 電力調達の脱炭素化、(b) エネルギー効率に優れたコンピューティング、(c) 半導体業界における新たな機会の収益化、の3つを柱とする新たな戦略的取組みを提言しています。

電力網を通じて外部から電力を調達するということは、発電起源のCO2排出量を自らの排出量として引き受けることを意味します。どのような企業であれ、発電起源のCO2排出量は自社排出量の大きな割合を占めています。しかし、持続可能性を目指す従来の取組みは、よりクリーンな方法で発電された電力の調達を目指すことより、排出量の相殺(オフセット)に重点が置かれてきました。弊社の提案する新たな戦略的取組みでは、AIの活用を推進するために、クリーンな(あるいは排出量ゼロの)電力供給網の整備を最優先に位置づけています。

図 1
新たな戦略的取組み – AIを支える、持続可能で豊かなエネルギー出典:アプライド マテリアルズ SMI.

謝辞

本レポートの作成にあたり、社内外の皆様から多大なるご助言・ご指導・ご支援を賜りました。ここに深く感謝の意を表します。

アプライド マテリアルズ

Sundeep Bajikar
Aashiv Shah
Dean Ramos
Kostas Mallios
Chris Librie
Elena Kocherovsky
Nasreen Chopra
David Britz
Om Nalamasu
Tristan Holtam

パートナー

Dallal Slimani (Schneider Electric)
Rajiv Khemani (Auradine)
Alexander Landia (The Mobility House)
Junichiro Yaguchi (Kioxia)
Kazuhiro Doh (Tokyo Electron)
Claire Seo
Carrie MacGillivray (TechInsights)
Pravin D’souza (Tata Electronics)
Elizabeth Elroy (Micron)
Marshall Chase (Micron)
Brian Daigle (Micron)
Neil Shah (Counterpoint)
Herve Maury (STMicroelectronics)
James Connaughton (JLC Strategies)
Andy Karsner (Stanford University Precourt Institute)
Peter Colohan (Lincoln Institute)
Yannis Tsakiris (European Investment Bank)
Handel Jones (IBS)

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